健康管理

不眠症と睡眠薬―最近の治療の考え方

心身を休めて、翌日の行動に活気を与えるのに大切な「睡眠」が何らかの形で障害されるのが「不眠症」ということになります。主に「不眠症」の治療適応とされるのは不眠による日中の眠気、集中力低下など昼間の活動に何らかの支障をきたす状態です。言い換えると昼間の活動に支障をきたさない睡眠時間の短さは「不眠症」とは言えないことになります。つまり、「眠れない」から睡眠薬を使うという安易な使い方をすると後で述べるような問題がいろいろ起こってくるリスクもあり、あくまでも「眠れないために日中の活動に支障をきたしている」から睡眠薬を使うことを考慮する、という考え方で使うべきということになります。

最もよく使われる睡眠薬としてはベンゾジアゼピン受容体に作用する睡眠薬です。ベンゾジアゼピン受容体作動薬はその受容体に結合することで強力に鎮静、催眠作用をもたらします。副作用としては筋弛緩作用があるため、転倒、ふらつきなどに注意が必要ですし、また4週間を超える連続使用では依存性が形成され、中止が難しくなる場合も多いため、最近では最初に使用する際には頓服での使用が推奨されています。

これらの副作用、特に依存性を回避するために最近推奨されている睡眠薬がメラトニン受容体作動薬とオレキシン受容体拮抗薬です。メラトニンは覚醒状態から睡眠モードへ切り替える体内時計ホルモンで、筋弛緩作用、記憶障害、依存性がないため安全性が高いとされています。一方、オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒をコントロールする神経伝達物質であるオレキシンと拮抗することにより睡眠を導入する薬剤です。この薬剤も筋弛緩や依存性による薬剤乱用の危険性がないとされ、効果発現も早く今後第一選択になっていくことが予想される薬剤です。

「眠れない」というのは心理的に辛い症状ではあるのですが、意外と目を閉じているだけでも脳は休息が取れていることも多く、本人が思っているよりも睡眠時間が確保できていることも少なくありません。「睡眠時間の短さ」を気にするより、「翌日の日中の活動に支障のある症状があるか」で睡眠薬を使うかどうかを決めるのがよいと思います。