健康管理

ストレスと胃腸の不調―機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群

胃腸などの消化管は迷走神経と呼ばれる、脳の一部である延髄から直接胸部や腹部などの内臓に分布する神経に支配されています。迷走神経は痛みなどを感じる感覚神経、消化管の動きを司る平滑筋を動かす運動神経、および自律神経の一つである副交感神経からなっています。この「自律神経」にはもう一つ別に「交感神経」というものが存在します。背中にある脊髄の傍を走る「交感神経幹」から伸びる神経で、人が何らかのストレスにさらされた場合に血圧を上昇させたり、心拍数を上げたり、筋肉を緊張させたりなどの体の機能を活発にさせる、いわゆるストレスに対して体を「臨戦態勢」にする神経になります。交感神経が刺激されると腸管の動きが抑制されます。「臨戦態勢」になると食べ物を悠長に消化している場合ではない、ということですね。その交感神経を抑える働きがあるのが副交感神経です。つまり副交感神経は腸管の働きを促進する働きがあります。

現代人は様々なストレスを抱えて生きていると言っても過言ではありません。ストレスの感じ方はそれこそ人それぞれですが、強く感じる方は交感神経の活動が副交感神経より優位になってしまいます。そうなると腸管の動きや消化の働きが悪くなってしまいます。そうなると消化管に病変がない(様々な検査を行っても異常を認めない)にも関わらず、食物などが消化管に停滞することによる胃もたれ、腹部膨満感、あるいは腸管が過伸展(拡張しすぎること)などにより起こる腹痛などの症状が現れます。これらを機能性障害と言います。

これらの機能性障害の代表格としては、機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群があります。機能性ディスペプシアは主に上部消化管(胃や十二指腸)に症状が現れます。慢性的な胃もたれ、心窩部(みぞおち)痛などの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患、と定義されます。一方、過敏性腸症候群は「腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する便通異常が慢性もしくは再発性に持続する疾患」と定義されています。便秘、もしくは下痢(あるいは両方ともに存在する場合もあります)が慢性、もしくは再発性に起こり、それが腹痛あるいは腹部不快感を伴っている機能的疾患、と言い換えると少しわかりやすくなるでしょうか。いずれもまずは内視鏡検査等の画像検査によって明らかな異常を示さない、というのがまず大前提にあります。「ストレス」と「胃腸症状」が密接に関連している病態もある、ということをお分かりいただけるのではないかと思います。