肝移植の適応を考える場合には、肝臓の提供を受ける患者さん(レシピエント)側の条件だけでなく、肝臓を提供する方の(ドナー)側の条件も必要になってきます。特に生体肝移植の場合、生きている健康な方からの提供であるためとても慎重に考えなければいけません。一番重要視しなければいけないのがドナーの安全、ということです。生体肝移植のドナー手術というのは、提供者に肝臓の一部を切除する「肝切除術」を受けていただくことになります。この手術は腹部手術の中でも最も大きなものの一つであり、順調に行っても5-6時間かかるとされています。このような大手術を安全に受けていただくにはまず大前提として、ドナーが健康であることが必要になってきます。あともう一つ重要な点は、それだけ大きな手術を受けるということは、リスクがとても低い、とは言いづらいため、きちんとリスクのお話を聞いていただいた上で提供者が誰かから強制されることなく、御自分の意思で提供を決めていただく、という点も大変重要です。肝臓の提供に関して医師の側はあくまで「こんな治療がありますよ」という情報提供を行うのみ、というスタンスで、決して提供を強いることはあってはならない治療ではあります。
他に考えなければいけない条件としては年齢、脂肪肝、肝臓のサイズ、血液型などがあります。まずは年齢。現在は多くの施設で、20歳から60歳、もしくは65歳までとしています。特に60代以上の方がドナーとなる場合は特に入念に全身検査を行う必要があると考えられています。
次に脂肪肝です。脂肪肝がドナーとして適しない理由はドナー側、レシピエント側の両方にあります。まずはレシピエント側の理由としては脂肪肝の肝臓は「酸欠」に弱い、という点です。脂肪肝があると肝臓が摘出されてレシピエントの血管とつなぎ合わせられるわずか数時間の酸欠状態で全く働かなくなる場合もあります。一方、ドナー側の理由としては、脂肪肝の肝臓は再生する力が弱い、という点です。肝臓が切除され、小さくなった状態で再生が起こらない間に感染症などを合併すると命取りになる場合もあります。
肝臓のサイズも条件としては大事なものになります。肝臓の大きさは体重に比例すると考えられています。例えば体の大きな方からは大きな肝臓が得られる可能性が高くなりますが(ただしあまり肥満が強く脂肪肝のある場合はそもそもドナーには適しませんが)、小さい方から大きい方へ移植する場合は十分な大きさを得ることができず、断念せざるを得ないケースもあったりします。
最後に血液型。それぞれ血液の表面にどのような「抗原」が存在するかにより決まり、その抗原としては「A抗原」「B抗原」があります。A抗原が存在する方がA型、「B抗原」が存在する方がB型、両方存在する方がAB型、どちらも存在しない方がO型、ということになります。肝臓にも同じ抗原があると考えられ、可能なら一致しているケースか不一致でも適合(例えば抗原のないO型から他の血液型)のケースがいい、と考えられます。
生体肝移植のドナーの適応についてはこのように様々な条件を考慮して慎重に決めていきます。