生活習慣病

脂肪肝―重大な病気が隠れているかもしれません

「脂肪肝」一度はその名前を聞いたことがある方も多いのではないかと思います。イメージとしては「私、脂肪肝と言われちゃって…」などとどちらかというと軽く考えられがちな病気ではあるかと思います。実際、私が医者になりたての30数年前には確かに病気のうちに数えられていなかった時期もあります。脂肪肝が肝機能障害の原因だったと判明した場合は「あなたの肝機能障害の原因は脂肪肝です。肝臓に脂肪がたまってしまう病気で太り過ぎが原因です。肝臓が悪くなって死ぬことはない病気ですが、動脈硬化が進んでしまって心筋梗塞や脳梗塞で命を落とすリスクがあります。食事、運動療法で頑張ってやせましょう。」という説明で消化器(肝臓)内科としては経過観察終了、という感じでした。ところが最近はこの病気の考え方について少し様相が変わってきています。

「脂肪肝」は確かに糖尿病、高脂血症、高血圧等のいわゆる「メタボリック症候群」を合併することが多く、その結果全身に動脈硬化をきたし、心筋梗塞や脳梗塞で命を落とすリスクが高いのも事実です。30数年前の私の説明はあながち間違いではないことは確かです。ただ、一方で「肝臓が悪くなって死ぬことはない」というのは実は最近ではそうではない、ということがわかってきています。中に肝硬変、肝癌へと進行していく「脂肪肝炎」という状態があり、これらの方は肝臓が原因で命を落とすことがあることがわかってきています。

まず、そもそもなぜ肝臓には「脂肪」がたまるかという所からお話します。現在は「飽食」の時代と言われ、皆さんもついつい「食べ過ぎ」てしまっているのではないでしょうか。「脂肪肝」というのは名前からすると「肉の食べ過ぎ」など脂肪を多く摂りすぎることで起こると考えられている方も少なくないかもしれません。確かに脂肪の摂りすぎも原因の一つではあるのですが、要は動くことで消費するエネルギーよりも食事を摂りすぎてしまっていることが原因です。脂質よりもどちらかというとつい摂りすぎてしまうのが糖質(炭水化物)です。ついお腹が空いてしまうとお菓子を間食してしまう、飲み会の後のシメにラーメン、ついつい惹かれてしまいますよね。糖質は非常に早く燃えるため効率のいいエネルギー源である、ということは以前の章でも述べました。ただ必要量を上回ってしまうと脂肪に変換され、体の中にためこまれる性質があります。これは古来から人間に備わる「飢餓」の際にいざという時に使えるエネルギー源としての「脂肪」としてためてしまう性質によるものです。この糖質を脂質に変換する場所も肝臓であり、肝臓も脂肪がたまりやすい性質がある臓器ではあります。

では、「脂肪肝」を防ぐためにはどうしたらいいでしょうか?やはり、基本は食事、運動療法です。まず一つの目安として「BMI」という肥満度を示す指標を覚えておきましょう。BMIとは身長(m)と体重(kg)から計算することが可能です(BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))。身長はm単位(すなわち160cmではなく、100で割った1.6mの方で計算することに注意して下さい。例えば165cm、70kgの方ならBMIは70÷1.65÷1.65で25.7と計算されます。BMIの値で25以上が肥満、30以上は高度(病的)肥満と判断されています。御自分の身長と体重がわかる方は電卓などで一度計算していただくといいと思います。

一般的には理想的な標準体重はBMIで22とされています。例えば先ほどの165cmの方で計算してみると22x1.65x1.65で59.9kgとなります。すなわち先ほどの例の方であれば10kgオーバーしていることになりますね。この標準体重を基準として、普段どれくらい動かれるかで1日の標準摂取カロリーが決まります。例えば余り動かない方であれば体重1kgあたり25kcal、軽作業の方で30kcal、重労働の方では35kcalという具合です。先ほどの身長165cmの方であれば、動かない方は1日1,500kcal、軽作業の方は1,800kcal、重労働の方は2,100kcalが必要、と計算されます。

体重を減らすためにはこの標準カロリーを超えないような食事に心掛けないといけません。最近ではいろいろな食品や昼に食べるコンビニなんかのお弁当でもカロリー表示がきちんと書いてありますので、これをもとにしっかり自分が摂れるカロリーを計算しながら食事をされるといいと思います。例えば甘い物が大好き、と言う方に対してはなかなかそれを完全に止めろ、というのもストレスになったりしますね。そうしたら甘い物を摂ってしまった分は食事で摂るお米の量を減らす、などでバランスを取るといいと思います。

運動療法は一般的には筋力トレーニングのような瞬発力を使う無酸素運動よりは、ウォーキングやジョギング、水泳と言った有酸素運動が有効とされています。最近では、スクワットや腕立て伏せ、体操などの標的とする筋肉に抵抗をかけるレジスタンス運動を無理のない範囲で行うのも有効、とされています。まずはエネルギー源としては糖質が使用されますので、余分な脂肪を燃やそうとすると少なくとも1回20分以上の運動が必要とされます。毎日30分の運動、あるいは毎日時間取れない方は週3-4回、1日1時間の運動でも同じ効果が得られるとされています。例えば30分早起きして通勤時に駅1駅分くらい余分に歩いてみる、というのでもいいでしょうね。