インフォームドコンセント

こんな言葉知ってますか?ーインフォームドコンセント、セカンドオピニオン、リビングウィルー

我々医師が使う言葉にはいわゆる「横文字」がたくさんあります。その一部には、ここ10-20年の間にすでに一般の方々にも使われ始めている言葉もいくつかあります。もちろん、言葉の意味を熟知されている方もおられるとは思いますが、一方で言葉としては知っていてもあまり深い意味はよくわからない、という方も少なくないと思います。本章では表題に挙げた代表的な「横文字」言葉であるインフォームドコンセント、セカンドオピニオン、リビングウィル、について述べてみようかと思います。

(1)インフォームドコンセント

インフォームド=説明を受ける、コンセント=同意、すなわち「説明を受けた上での同意」と訳されています。情報、という意味の「インフォメーション」という言葉は御存知の方も多いかと思います。説明を受ける側にしっかりした情報を与えた上で納得してもらい、検査や治療についての同意を得る、という意味で使われています。

昔の医師は「お医者様」であり、患者は医者の言うことを聞いていればよい、という風潮の時代であったのは否定できません。私が医師になった頃にはその風潮もだいぶ変わってはきてはいましたが、まだそのような考えを持っている医師も少なくありませんでした。もちろん、「インフォームドコンセント」という言葉自体もまだ普及しておらず、当時は患者さんへの説明のことを「ムンテラ」という言葉を使ったりしていました。ドイツ語のMund Therapie(Mund=口、Therapie=治療)の略語で、口で患者を治療する、すなわち説明をすることで患者さん、御家族を安心させる、という意味合いの言葉を使っていました。どちらかというと今のインフォームドコンセントとは違い、「こういう検査(治療)を提供するから安心して受けなさい」という印象の言葉ではありました。昔は医療知識という意味では、医療者と患者さんの間に圧倒的な差があり、なかなか患者さんがそのことに疑問を感じることすら難しい時代背景があったこともあるかと思います。

ただ、最近のインターネットの普及で、医学知識を簡単に患者さんの方も知ることができるような時代になってくると医療側の説明に疑問を持つケースも増えてくるようになり、時として医療側の一方的な押し付けの説明のみでは思わぬトラブルになるケースも出てきました。そこで現れてきた概念がこの「インフォームドコンセント=説明を受けた上での同意」ということになるかと思います。

このインフォームドコンセントにおいてはまず、今から行う検査、治療についてこういうメリット(効果)があり、必要性があること、反対にその検査や治療を受けることで、このような合併症、あるいは副作用などがどの程度の割合で起こるか、等のデメリットを十分説明した上で、特に大事なのが「コンセント」すなわち、患者さんおよび御家族が「同意(納得)」して検査、治療を受けていただく、という点です。もちろん全ての患者さんに対する全ての治療行為に対してこれを得ておくのが理想的なことではあるのですが、例えば数多くいらっしゃる外来患者さんの全ての行為に対してこれを行うのは基本的に不可能です。ただ、一方で「インフォームドコンセント」を求めるというのは患者さん、およびその御家族に与えられた権利ではあります。特に疑問がない場合はいいのですが、もし少しでも医療行為に疑問がある場合には主治医に質問し、納得して受けていただく、というのも広い意味でのインフォームドコンセントになると思います。

(2)セカンドオピニオン

「セカンド=第二の」「オピニオン=意見」すなわち、医師による医療行為について疑問が解消されない場合に、全く別の医師に「第二の意見」を求める、という意味になります。これももちろん、患者さん、および御家族に認められる権利の一つです。ずっと診てもらっている医師に対して他の医師の「セカンドオピニオン」を受けたいと言い出すのはなかなか勇気がいることではあると思います。心証を害してしまうのではないか、今後は余り親身に診てくれないのではないか、などの不安が生じてためらってしまうということもあるかもしれません。ただ、先ほどの章でも述べたように「インフォームドコンセント」の時代、医療行為にも同意(合意)が必要です。医師としてはセカンドオピニオンの依頼をされた場合断ることはできません。逆にセカンドオピニオンを受けてもらうことを断る医師はあまりいい医師とは言えないと思います。そうなった時には別の医師を選ぶ、という一つのいい目安にはなるかもしれません。医師は患者さんを選べませんが、患者さんは医師を選ぶことはできますので。

ただ、一つ気を付けた方がいいのが、納得できないということでいたずらにいくつも意見を聞いているうちに患者さんの病状が悪化してしまい、思わぬ不幸な方向に行ってしまう、ということは避けないといけないという点です。余り緊急性のない病気の場合は納得するまでいろんな意見を聞きに行くのは決して悪いことではありません。一方、例えば担当医から余り患者さんや御家族の望む形の方針を言われなかった場合に、希望通りの意見を求めてセカンドオピニオンを聞きに行くケースもあると思いますが、一方でもともとの担当医の提示した「望まない形」の方針が実は医学的に妥当な意見で、セカンドオピニオンを求めても結局は担当医と同じ「望まない形」の意見だった、ということも十分あり得ます。まず2つ、せいぜい3つの所で同じ意見を言われた場合はまずその方針で間違いないと考えても差し支えないと思います。特に緊急性のある病気の場合はいたずらに何度もセカンドオピニオンを求めない方がいい場合もある、ということは注意が必要です。

(3)リビングウィル

「リビング=生きる」「ウィル=意思」、この言葉は例えば人生の終末期に「最期にどんな生き方をしたいか」ということを表明する、という意味で使われます。例えばがんの末期状態でこれ以上の積極的な治療ができないほど進行してしまっている状態、あるいは悪性疾患でなくても慢性に進行する病気で治療による回復が困難になった時、また高齢でかなり衰弱してきてしまった時に、何か急激な病状の変化で生命の危機にさらされた時にどこまでの治療を望むか、あるいは望まないか、ということを決めておく、という意味になるかと思います。

具体的には、慢性的な病状進行の経過中に何らかの急激な変化が起こって生命の危険にさらされた場合、どこまでの治療をどこまで行うか、すなわち、どんな状況になっても積極的な治療、あるいは延命治療を望むのか、延命治療の中でも例えば心肺停止状態に対して心臓マッサージ、人工呼吸を行うのか、食べられなくなった時に経管栄養(鼻からチューブを入れてチューブから栄養補給を行うこと)や胃瘻増設(胃と皮膚に小さな穴を開けてバイパスを作り、その間にチューブを入れてそこから栄養の補給を行う方法)を行うかどうか。中心静脈栄養(首の近くの太い静脈に管を入れて、末梢の細い静脈からは炎症が起こるため入れることのできない十分な栄養が行き渡るだけの濃い輸液を入れる方法)を行うのか、そこまでせずに末梢の静脈栄養だけにするのか、がんの末期状態における慢性出血に対して輸血まで行うかどうか、細かく言うとかなり決めるべきことは多いです。

基本的にはもともと元気だった方についての急な病状変化に対しては、我々医療者は全力で救命することになります。一方、もともと回復困難な方に対して必要以上に積極的治療をすることはかえって患者さん、および見ている御家族にとって大変辛いことも多いため、これらの積極的治療を希望しないケースもあります。「積極的治療をしない」という意思を我々はDNR(Do Not Resucitate;蘇生しないで下さい、という意味)と呼んでいます。このように「リビングウィル」とは生命の危機にさらされた時にどこまでやるか、あるいはやらないか、を患者さん(および御家族)と医療側の間で合意して決めておく、という一種の「インフォームドコンセント」ということになります。